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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)154号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

三そこで昭和五三年一二月二三日当時における本件建物の相当な賃料額について検討する。なお昭和五〇年一〇月二〇日合意された賃貸契約における保証金、償却金の額については、後記(第二)認定のとおり右合意のほかには他に特段の合意があつたものとは認められないから<証拠>により前者については二四〇万円、後者については四〇万円の合意があつたものとして算定する。

1 先ず<証拠>(本件提起後、被告が不動産鑑定士である訴外金井祐次に依頼して、昭和五四年一〇月二四日に、本件建物の適正賃料額を鑑定した結果を記載した書面―以下「金井鑑定」という)によると、昭和五三年八月一日当時の本件建物の継続賃料額の適正な額は一か月四一万九〇〇〇円であるとしており、右はいわゆる積算法により算出された賃料額を基準とし、これから保証金の運用益及び償却金を差引き、適正な経済賃料と実質支払賃料との差額の配分などの補正を補した金額によつて算定しているものと認められる。

これに対し成立に争いがない甲第六号証(本件の自庁調停手続において、不動産鑑定士である訴外藤澤史朗に命じて本件建物の適正賃料額の鑑定を命じ、同訴外人によつてなされた鑑定の結果を記載した書面―以下「藤澤鑑定」という)によると、昭和五三年一二月二三日当時の継続賃料は一か月五六万円(同年八月一日当時は五五万円)が相当であるというのであり、右はいわゆる差額配分法(その算定の方法については金井鑑定の積算法と基本的には同じ)によつて算定された一か月の適正賃料五七万二四九四円(同年八月一日当時は五六万一八〇〇円)、いわゆるスライド法によつて算定された一か月の適正賃料一か月五五万一八六〇円(同年八月一日当時は五四万八六九六円)に近隣の賃料額をも参考にしたうえ総合して算定したものと認められる。

2 ところで右両鑑定を比較すると、評価額において一か月につき一三万一〇〇〇円の差が認められる。

そこで両鑑定それぞれについてみるに、金井鑑定は、算定の方法としていわゆる積算方法のみにより、その算定に当つては、特に土地の最有効使用状態にないこと、及び建物の機能的要因、経済的要因に欠陥のあることを重視して前者につき敷地の価格算定において三五パーセントを、後者につき建物の価格算定において三〇パーセントの減価をしており、これが藤澤鑑定との間に前記差を生ずる大きな要因をなしているものと認められる。

ところで前記当事者間に争いがない事実によつて明らかなとおり、本件建物の賃料については、三年の期間が満了し更新する毎に合意のうえ改定されているのであり、特段の事情のない限り、このようにして当事者間で定められた賃料は、当該土地及び建物の利用価値、当事者双方の経済的事情等を勘案したうえ合理的に決定されたものと理解されるところ、右合理的決定を阻害したと認めるに足りる特段の事情は認められない。

してみると、当事者間で合意された昭和五〇年八月一日当時の賃料額を基準として、その後に生じた事情、すなわち、敷地の賃料の増額、公租公課の負担の増大、物価の上昇等を考慮に入れたうえで適正賃料額を算定し更に適切な事例が得られれば近隣の賃料をも調査し、これを総合勘案したうえで相当賃料額を決定すべきものと考えられる。

金井鑑定はこのような方法によらず、いわゆる積算法によつてのみ適正賃料を決しており(但し近隣に適切な事例が得られないとして比較法による試算は不能としている)、そのままこれを採用することはできない。なお、その鑑定結果についてみるに、昭和五〇年八月一日当時の賃料に比し一か月一万九〇〇〇円の増額となるに過ぎないところ、前記認定のとおり本件建物敷地の賃料は昭和五〇年八月一日当時一か月七万一七一五円であり、昭和五三年八月一日当時は一か月八万二一九二円に、一万〇四七七円が増額されているのであるから、金井鑑定のとおりとすると右地代の増額分を差引くと八五一九円を余すのみとなり、本件建物に対する公租、公課の負担の増大、その間の物価の変動を考慮すると到底妥当な結果とはいえない。

次に、藤澤鑑定についてみるに、同鑑定中、差額配分法による試算については、その試算の方法においては妥当なものとみられるが、その算定の基礎とすべき敷地及び本件建物の基礎価格の決定に当り、補正すべき減価率等の点において前記金井鑑定との間において大きな差異が認められる。特に前出甲第六号証、乙第一号証によると、本件建物の敷地は住居地域で一般住宅、アパート、各種事業所が混在し、建築規制上建ぺい率六〇パーセント、容積率二〇〇ないし三〇〇パーセントの土地であると認められるところ、敷地の地積が399.33平方メートルであるのに対し本件建物の床面積が294.27平方メートルで工場として使用されていることを勘案するならば、最有効使用の状態にある場合に比し、一〇パーセントを減価すべきであるとしているのは、減価の率において低きに失するものと考えられる。

また、スライド法による試算においては、昭和五〇年八月一日改定時の敷地の純賃料二〇万三九六八円によるのを相当でないとし、これを二九万二〇〇〇円に修正したうえで適正賃料額を算定しているところ、その結果敷地の純賃料額は昭和五〇年八月一日当時の二〇万三九六〇円から三六万七九二〇円に大巾に増加することになりその結果本件建物の賃料も大巾に増加する結果となつている。なるほど、原告代表者尋問の結果、前出甲第六号証によると、昭和五〇年八月一日の改定では、被告が経営状態が思わしくないことにより賃料増額の巾を押えようとしたため交渉が難行し、結局六万円の増額で合意したが、右増額は同期間中の敷地の賃料の値上げされた額とほぼ同一であるに止まつたことが認められ、右事情に照らすと右修正も合理的理由があると考えられる。しかし、他方前記経過はあつたにしても、右昭和五〇年八月一日をもつて改定された賃料も、当事者の合理的意思によつて決せられたもので、特にこれを次の改訂の際に是正することの明確な合意があつたと認めるに足りる証拠は見当らないし、建物の賃料は借主の生活或は事業において重要な要素を占めるものであるから特段の事情の変更のない限り一時に修正をして急激な増額を生ずることは妥当でないと考えられる。

以上のとおりであるから藤澤鑑定もまた相当賃料を決するに当つてそのまま採用することはできない。

3 以上の点を総合勘案し、これに昭和五〇年八月の東京都区部消費者物価指数が99.5、昭和五三年一二月のそれが124.6であることをも考慮すると、昭和五三年一二月二三日以降の本件建物の相当賃料額は一か月五〇万円とするのが相当であり、原告の増額の意思表示はその限度で効力を有するものというべきである。

(川上正俊 持本健司 林圭介)

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